日本政府が在宅勤務にシフトを促すのには理由がある(コロナ禍だけが要因ではない)
日本の人口減少や少子高齢化は経済成長や社会基盤の整備に様々な影響を及ぼします。
生産性年齢人口(15~64歳)の減少に比例するように、日本では労働力人口(生産性年齢人口から主婦や学生などの非労働力人口を差し引いた人口)の減少が既定路線といえます。
仮に・・仮に労働参加が進展しても、2030年までに就業者数は減少すると推計されています。
さらに日本は厳しい財政状況といった制約条件下で、加速するインフラ老朽化に対応し、衰退していっている地方地域を活性化し、新興国の成長が著しいなかでも厳しい国際競争に勝ち抜いていくための競争条件を整えて行かなければなりません。
地方の衰退は目に見えて明らかです。東京から九州の実家に帰る度に経済の衰退を目の当たりにしています。
日本の官民の研究開発投資額は2008年頃から横ばいですが、中国は2014年に2000年比8.4倍にまで拡大し、日本の支出額を大きく上回りアメリカに近づく状況にあります。
対して日本は、2030年には多くのインフラが築50年超になり、社会インフラの老朽化の整備費用や維持管理コスト増加が財政負担に拍車がかかる見込みです。
日本の財政は、毎年の多額の国債発行から普通国債残高が2021年度末に990.3兆円と、2020年度末に比べて84.3兆円増える見通しです。。名目国内総生産(GDP)559.5兆円に対する比率は約177%と、前年度末比18.1%上昇する見込みです。
国際的にも歴史的にも最悪の水準にあります(太平洋戦争末期と同水準)。ギリシャのような財政危機の発生を防ぐためにGDP対比で債務残高が伸び続けないよう、財政健全化の目標を確実に達成することが国際社会からの信任を得る唯一の方法といえます。コロナ禍を言い訳に歳出が伸びていくと経済成長の足枷になり得ます。
令和2年度⼀般会計補正後予算 歳出・歳⼊の構成
技術の進化が日本の労働力人口にプラス
昨今、IoT(Internet of Things)・ビッグデータ・AI・ロボットなどの第4次産業革命が世界的に進みつつあります。
人工知能やIoTによる経済価値(グローバルで)は日本のGDPの約4倍になるとの試算があります。
生産・流通・消費といった一連の経済活動だけでなく、働き方やライフスタイルも含めて社会の在り方が大きく変化しようとしています。ただ、AI研究の国際会議での論文発表数(2010~2015年)は、アメリカと中国が突出しており、日本はこの分野で出遅れているといえます。
IoT(Internet of Things・モノのインターネット): パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器に限らず、すべてのモノがインターネットにつながり相互に情報をやり取りすること
最新のテクノロジー(モバイルテクノロジー)を駆使した変革は、企業の生産性をあげるものだけではありません。
テクノロジーの活用は、人々のワークスタイル・コミュニケ―ションにも大きな変革をもたらします。決められた時間に満員電車に揺られながら疲弊し会社出社し、固定のデスクでパソコンに向かったり、会議室に大人数で集まってあまり意味のない報告書を一方的に聞くのではなく、いつでも・どこでもコミュニケーションができる、そんな働き方が現実のものになりつつあります。
働く人の多様性を尊重し、時間と場所を超えたより創造的な働き方により生産性の高いワークスタイル・コミュニケーションを模索する企業が増えつつあります。
情報・通信ネットワークの進歩が進み、本格的な人・物の移動を必要としない生産活動が増えるのは近い未来といえます。
このような技術革新により主婦や高齢者が在宅でオフィス勤務と同等の条件下で働くことが可能になります。
日本企業は、こうした世界的な潮流をとらえ率先してイノベーション技術を活用し、労働力人口を増やし、生産性を飛躍的に高め、日本の持続的な経済成長を実現・サポートする必要があるといえます。それが潜在的な顧客を増やすことにもつながります。コロナ禍をよいチャンスと捉え、テクノロジーを活用した進化が求められています。
新しい働き方の模索
モバイルテクノロジーの進化により、テレワーク(リモートワーク)などの新しい働き方が爆発的に普及することで、働く場所・時間に制約が少なくなることが予想されます。
テレワークとは、『tele ( 遠く・遠方の)』と『work ( 働く)』をあわせた造語で、情報通信技術を活用し場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを指します。
テレワークの種類
-
在宅勤務・テレワーカー
-
モバイル・テレワーカー(顧客先・訪問先・外回り先・カフェなどの場所)
-
サテライトオフィス・テレワーカー(自社の他事業所・複数の企業や個人で利用する共同利用型オフィス・コワーキングスペース)
国土交通省(国土交通白書)の2017年の調査によると、『2050年における主な仕事場』という意識調査で、テレワークが普及した環境下で『どこで仕事を行いたいか』という問いに対しては、51.5%の人が自宅の勤務を希望すると回答しています。コロナ禍の前の時期から、労働者はテレワークを欲していたのです。
職業別の傾向を見ると、『専業主婦・主夫』は73.7%が自宅を選択しています。
一方、『正社員・正規職員』は59.2%が職場を選択しており、引き続き働きなれた&通いなれた職場で働きたいと考える人が多い傾向にあります。
筆者も外資系金融機関に勤めていた際には、リモートアクセス(外部コンピューターから会社PCへのアクセス)やブラックベリーを活用し、在宅勤務を経験した事がありますが、当時はネットワークの通信速度の遅さやコミュニケーションツールの不足から生産性はオフィス勤務より極めて低かったといえます。
日系金融機関の場合は、リモートアクセスは許されていませんでした。セキュリティーへの懸念から、紙一枚さえ持ち出すことが出来きませんでした。モバイルテクノロジーは進化しており、自宅からでも必要なアプリケーションとデータに安全にアクセスできる環境が整いつつあります(”脱印鑑”)。
企業が進める在宅ワークの職種一覧
-
広告メール・採用広告の作成・文章入力
-
データ入力
-
ホームページ作成
-
システム設計・プログラミング
-
設計・製図・デザイン
-
Webデザイン・グラフィック
-
DTP(デスクトップパブリッシング)編集 ・電算写植
-
イラスト制作
-
Webコンテンツ制作・ライター
-
調査・マーケティング
-
翻訳
-
電話によるカスタマーサービス
2017年11月には、企業が就業規則を制定する際のひな型となる厚生労働省の「モデル就業規則」から、兼業・副業を禁止する項目を削除し、原則容認する方向へ見直すことが発表されています。これにより、近年増加している大手企業の副業解禁の流れが中小企業へも波及するとみられ、副業人口が大幅に増えることが見込まれています。労働者、企業のメリットとしては以下が挙げられます。
<労働者のメリット>
・所得の増加
・主体的なキャリア形成、起業や転職への準備
・やりたいことへの挑戦、自己実現の追求
<企業のメリット>
・社内では得られない情報・知識・スキルの獲得とそれによる事業機会の拡大
・優秀な人材の獲得と流出の防止、競争力の向上
クラウドソーシングの利用が急増
インターネットを通じて不特定多数の人々に仕事を発注することができる『クラウドソーシング』の利用が急増しています。それは国内のみならずクロスボーダー案件も増えています。例えば、NASA(アメリカ航空宇宙局)は宇宙開発プログラム・米軍の新型軍用車の設計など様々な分野でクラウドソーシングを活用した仕事の発注を増やしています。
コロナ禍だけが要因ではなく、新しいアイデアを国の枠を超えて短時間で集めることができるという特徴があります。
信頼も実績もないスタートアップの会社が新規の仕事受注を求めてクラウドソーシングサービスを活用する例も増えています。
国内でもクラウドソーシングの場を提供する『クラウドワークス』が注目を集めています。日本最大級のクラウドソーシング『クラウドワークス』はオンラインの仕事マッチングサイトという位置付けです。
エンジニア・デザイナー・ライターなど、100種類以上の仕事を得意とするプロフェショナルの登録(会員数は160万人を突破)があり、 登録者(クライアント数は21.5万社に達し、内閣府・経産省・外務省など政府9府省を筆頭に、40以上の自治体、行政関連団体が利用)に対してホームページ作成やiPhoneアプリ開発、ロゴマークやチラシデザイン、ネーミングやテープ起こし・文字起こしなどの仕事を発注することが出来ます。
大手企業への受注と比較して低予算で比較的手軽にインターネットを介して利用できるクラウドソーシングとして、官公庁や上場企業の利用実績も豊富といえます。
通常のビジネスシーンではなかなか出会うことが難しい会社同士が、クラウドソーシングという場で出会うというマッチング機能も魅力的といえます。
在宅勤務においてはどの職業が将来残るのかを見極めることが重要
2030年までになくならない仕事・職種とは?
オックスフォード大学のオズボーン氏が発表した論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(未来の職業)」では、仕事の702職種を「コンピューターが代行できるかどうか」という視点でランキング化しています。
技術の進歩はこれから加速していきますので、在宅の業務の内容についても変化が予想されます。
今後どの職種が有望であるか、また有望な職種でも在宅勤務として成り立つものなのかを見極めてスキルを身につけていくことも在宅勤務成功のカギとなるでしょう。テクノロジーが発達してもなお、人のケアは人にしかできないだろうという予想がなされています。<
以下がそのランキングです。
- レクリエーションセラピスト(Recreational Therapists)
- メカニック
- 修理工
- 施工業者
- 緊急管理取締役(Emergency Management Directors)
- メンタルセラピスト(Mental Health and Substance Abuse Social Workers)
- 聴覚訓練士(Audiologists)
- 作業療法士(Occupational Therapists)
- 歯科技工師、義肢装具士(Orthotists and Prosthetists)
- 医療ソーシャルワーカー(Healthcare Social Workers)
- 口腔外科医(Oral and Maxillofacial Surgeons)
- 消防士(First-Line Supervisors of Fire Fighting and Prevention Workers)
ランキングにおいて技術革新が進んでもなお残るとされた仕事の第一位は、Recreational Therapists(レクリエーションセラピスト)でした。新しいアイデアを提案できる人材や、専門的な技術を持つ人材は、どの時代であっても強いといえるようです。また、職種(メンタルセラピスト)によっては在宅でも問題ないと言えるでしょう。
在宅勤務へのシフトは止まらない
政府はすでに”世界最先端IT国家創造宣言”を閣議決定しておており、『テレワーク導入企業数3倍(2012年度比)』『雇用型在宅型テレワーカー数10%以上』などの政策目標が掲げています。
テレワーク制度も導入しており、国家公務員テレワークを率先して実施しています。
超高齢化社会において、高齢者でも就労継続を希望する人の割合は80%を超えておりテレワークの活用により、高齢者でも移動の負担がなく生きがいのある仕事を続ける事が可能になります。
世界中で次々と創出されるイノベーションを日本社会でどのように受容していくのかが重要と言えるでしょう。
テクノロジーの進化が働き方改革を後押し、2050年よりも早い段階で多くの人がオフィスではなく家で働けるようになることを願います。