新興国市場のこれから

Paris

「銅」の需給動向で紐解く新興国市場のこれから

 

先進国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大ペースの鈍化と、それを受けた経済活動再開を背景に、株式市場は今後の景気回復を織り込む動きが続いています。

 

米FRBを中心に全世界的に相次いで金融緩和が実施されるなど、世界的にカネ余りとも呼べる状況が強まっていることも、こういった動きの後押しとなっているといえるでしょう。

 

さらに、全世界的に財政出動を通じた景気下支えの動きが広がりを見せており、財政、金融の各面で経済を回すことに注力していることも好感されているといえます。

 

各国政府や中央銀行が発表している経済指標は、市場動向や景気の先行きを分析するうえで、重要な役割を担う情報の一つです。その中で今回は、「炭鉱のカナリア」とも称され、経済の動向をいち早く織り込む指標とされる「銅」の需給動向から、今後の新興国市場を考えていきます。

 

銅は、銀の次に高い電気伝導性や熱伝導性を持つ、展延性が高く加工が容易、錆びにくい、多様な金属との合金化が可能など、優れた特性があります。また、その高い導電性から電線の小型化が容易であるため、銅の電線は様々な産業分野で利用されています。

 

たとえば、電力分野での架空送電線や地中送電線、通信分野での各種ケーブル、電気機械・電気電子分野での電気配線、自動車・輸送分野での自動車用ワイヤーハーネスや車両用電線、船舶用電線、建設分野での引き込み用電線や屋内の電気配線などに使用されています。

 

その他にも、新興国の都市化や交通インフラの整備に用いられる送電線としての利用や、電子部品の素材などIT関連の用途も幅広く、非鉄金属の中で最も世界経済動向との関連性が高いとされています。

 


「銅」の需給動向に連動する新興国市場

 

World

 

近年では、銅の需給動向は、新興国市場との連動性を高めています。それは、インフラ投資の中心が、新興国に移っているためです。

 

とくに、需要側を左右するのは中国の動きです。世界における銅消費の約40%~50%が中国であり、銅電線や銅管、電子材料向けの伸銅品などの需要の変化に大きな影響を与えます。

 

一方で、生産・供給側では、チリやペルーなどの鉱山における増減産の動きのほか、各国の銅地金の生産動向に左右されます。

 


「銅」の需給の回復傾向、今後の新興国市場への期待

 

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現在、中国では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が一旦収束し、経済活動が持ち直すことにより、銅需要の回復観測につながっていると見られています。

 

2020年3月の中国の未加工銅の輸入量は前年比で約13%増加し、直近の水準からすると依然低水準ではあるものの、少しずつ銅需要が増加していると考えられ、IT関連資材や半導体など5Gの本格稼働を見据えた需要の底堅さを感じます。

 

また、2020年4月下旬に欧米諸国が段階的な経済活動再開の方針を示したことも、銅価格反発の一因と考えられます。

 

今後、中国を含む世界の貿易量がV字回復していく姿は描きにくいものの、足元で銅価格の安定が見られ、また半導体の売上動向が大幅な下落傾向にないことから、製造業をはじめとして世界経済は、意外にも底堅いといえるでしょう。

 

以上のように、中国をはじめとして、銅の需給動向を決定する環境は、回復傾向にあるといえます。そのため、金融市場が今後も堅調に推移する前提で、今後の新興国市場には一定の期待が持てるといえるでしょう。

 

しかしながら、その前提が崩れた場合、一転して新興国に対するリスク回避が再燃する可能性はあります。