転職を家族にどう伝えるか。海外エグゼクティブが「最初に」相談する相手とは

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転職を家族にどう伝えるか。海外エグゼクティブが「最初に」相談する相手とは

内定より先に越えるべき壁は、実は家庭の中にあります。ハーバード、INSEAD、大手ヘッドハンターの知見から、成功するリーダーの「伝え方」と「相談の順番」をひもときます。

年収も役職も一段上がる。そんな転職のオファーを前にして、多くの人が最後に悩むのは「家族にどう切り出すか」ではないでしょうか。

海外のトップ層を見ていくと、ひとつの共通点が浮かび上がります。それは、家族を「報告する相手」ではなく、最初に「一緒に決める相手」として扱っていることです。

この記事では、海外の研究データと企業の事例をもとに、ハイクラス転職を目指す人が知っておきたい「家族への伝え方」と「相談の順番」を、わかりやすく整理していきます。読み終わるころには、次のキャリアの話を家族とするのが、少し楽しみになっているはずです。

そもそも、なぜ「家族」が転職の成否を分けるのか

まずは数字を見てみましょう。アメリカの引っ越し大手アトラス・バンラインズが毎年行っている企業の転勤調査(2026年版、549社の担当者が回答)では、2025年に社員が転勤を断った理由の1位は「家族の事情・つながり」で34%でした。2位は引っ越し先の住まいの心配(28%)、3位は今の家を売る・手放す心配(21%)です。

さらに同じ調査では、約46%の企業が「前の年より転勤を断る人が増えた」と答えています。会社側が手厚い支援を用意しても、最後に首を縦に振るかどうかを決めるのは、やはり家族なのです。

34%

転勤を断った理由の1位「家族の事情」(アトラス社 2026年版調査)

32%

家族を動かしたくないと海外赴任を断った経験のある幹部(ハーバード調査、82人中)

28%

「夫婦関係を守るため」に海外赴任を断った経験のある幹部(同上)

海外赴任の分野では、もっとはっきりしたデータがあります。大手会計事務所EYの調査では、海外赴任が失敗する理由の1位は「パートナーが新しい生活に満足していないこと」とされています。INSEAD(フランスの名門ビジネススクール)のジェニファー・ペトリリエリ教授も、HBRのポッドキャストで、転居をともなう異動がうまくいかない主な原因はパートナーの不満だと語っています。

つまり、家族は「最後に説得する相手」ではありません。キャリアの成功そのものを左右する、いちばん大きな要素なのです。

ポイント1つ目:海外エグゼクティブが最初に相談するのは「パートナー」

ハーバード・ビジネス・スクールのボリス・グロイスバーグ教授らは、5年間にわたって世界の約4,000人の経営幹部への聞き取りを集め、2014年にHBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)で発表しました。そこで見えてきたのは、仕事と家庭をうまく両立している幹部ほど、仕事の決断に家族を巻き込んでいるという事実です。

裏を返せば、家族に相談せずに決めてしまう人ほど、あとから家庭か仕事のどちらかで無理が出やすいということです。

トップヘッドハンターも「家族のこと」を最初に聞く

世界最大級のヘッドハンティング会社コーン・フェリーで、CEOの後継者選びを率いてきたジェーン・エディソン・スティーブンソン氏は、HBRへの寄稿でこう書いています。転居をともなうポストを紹介するときは、候補者の配偶者の仕事、子どもの年齢、近くに住む高齢の親がいるかどうかまで早い段階で確認する。わからなければ「ご家族のことで配慮すべき点はありますか」と率直に聞く、と。

理由はシンプルです。家族の事情は、後から出てくると話そのものを止めてしまう「ブロッカー(障害物)」になるからです。同氏は34年の経験の中で、転居をともなう採用でいちばん難しかったのは子ども、特に高校生の子や特別な支援が必要な子がいるケースだったと振り返っています。

ここがポイント

プロのヘッドハンターですら、まず家族を確認します。それなら本人が家族に相談するのは、なおさら「最初の一手」であるべきです。同氏は、多くの男性CEOが「家族の支えがなければトップにはなれなかった」と話していることも紹介しています。

ポイント2つ目:「何を選ぶか」より「どう選ぶか」が大事

共働き夫婦の研究で知られるペトリリエリ教授は、30か国以上・100組を超えるカップルへの聞き取りをもとに『Couples That Work』という本をまとめました。教授がもっとも興味深い発見として挙げているのが、夫婦が何を選んだかはあまり関係なく、どうやって選んだかが大きく関係するという点です。

たとえば、同じ「夫の転職を優先する」という決断でも、一方的に決めたのか、2人で話し合って納得して決めたのかで、その後の満足度はまったく変わります。

転職は、夫婦の「節目」の入り口になりやすい

教授によると、共働きカップルには関係が揺らぎやすい3つの節目があります。1つ目は、2人で初めて大きな決断をするとき(昇進や転居の話が出たときなど)。2つ目は、キャリアの途中で「このままでいいのか」と見直すとき。3つ目は、キャリアの終盤に入るときです。ハイクラス転職は、まさにこの節目を呼び込む出来事です。

そこで教授がすすめているのが、次の2つの考え方です。

  • ✓キャリア・マッピング:2人それぞれのキャリアの計画を、地図のように並べて見える形にすること。どちらがいつ挑戦し、どちらがいつ支えに回るのかが見えてきます。
  • ✓カップル・コントラクティング:お互いに大切にしたいこと、絶対に譲れない線、不安に思っていることを言葉にして、2人の約束として決めておくこと。

ポイントは、転職の話を「決まったことの報告」として持ち込まないことです。家族を共同の意思決定者として最初のテーブルに招く。これが、海外のリーダーたちが実践している伝え方の土台です。

ポイント3つ目:家族の次は「パーソナル取締役会」に相談する

海外のエグゼクティブの間では、「パーソナル取締役会(Personal Board of Directors)」という考え方が広く使われています。会社に取締役会があるように、自分のキャリアにも、さまざまな角度から助言してくれる人たちのチームを持とう、という発想です。実際に全員で集まるわけではなく、テーマに合わせて個別に相談する「心の中の相談チーム」と考えるとわかりやすいでしょう。

役割 どんな人か 転職で聞くべきこと
メンター 同じ道を先に歩いた経験者 そのポジションで本当に求められることは何か
コーチ 考えを整理し、行動を後押しする専門家 自分は何を大事にして決めたいのか
チャレンジャー 言いにくいことをはっきり言ってくれる人 この転職の弱点や見落としは何か
スポンサー あなたを推薦し、扉を開いてくれる人 次のステージで誰とつながるべきか

ここで大切なのは順番です。まず家族と「何を大事にしたいか」をそろえ、そのうえで取締役会のメンバーに「その条件で最善の選び方」を相談する。順番が逆になると、外の意見で固めた結論を家族に押しつける形になり、ペトリリエリ教授のいう「どう選ぶか」でつまずいてしまいます。

具体例:家族に伝えるための5つのステップ

ここまでの研究をふまえて、実際に家族へ切り出すときの流れを5つのステップにまとめました。

  1. 1
    応募や面接の前に、まず「迷っている」と打ち明ける
    内定が出てからでは「もう決めたの?」と受け取られがちです。検討の段階から話すことで、家族は意思決定の仲間になります。
  2. 2
    「なぜ挑戦したいのか」を条件より先に話す
    年収や肩書きの話から入ると、家族は損得で判断し始めます。どんな仕事で、なぜ今なのかという動機を先に伝えましょう。
  3. 3
    家族の不安を先回りして、全部テーブルに出す
    スティーブンソン氏が候補者にするように、パートナーの仕事、子どもの学校、親のことなど、気になる点を遠慮なく出してもらいます。
  4. 4
    2人のキャリアを並べて「次の5年」を話す
    ペトリリエリ教授がすすめるように、自分だけでなくパートナーの挑戦のタイミングも一緒に描くと、どちらか一方の犠牲になりにくくなります。
  5. 5
    「見直しの日」を決めておく
    入社して半年後など、家族全員で「今どう感じているか」を話す日をあらかじめ約束しておくと、不安が小さいうちに手を打てます。
よくある家族の不安と、伝え方の例
家族の不安 避けたい言い方 おすすめの言い方
収入が不安定にならないか 大丈夫、なんとかなるよ 最悪の場合も含めて数字を一緒に見てほしい
忙しくなって家にいなくなるのでは 最初だけだから我慢して 譲れない家族の時間を先に決めておきたい
自分(パートナー)の仕事はどうなるの 今回はこっちを優先させて あなたの次の挑戦はいつにするか、一緒に決めたい
転居で子どもの学校が変わるのでは 子どもはすぐ慣れるよ 会社の支援内容を確認して、子どもの意見も聞こう
家族ごと支える海外企業の例

転職先を選ぶときは、「家族を巻き込む」ことを制度として後押ししてくれる会社かどうかも大事なチェックポイントです。海外企業の代表的な取り組みを紹介します。制度の内容は変わることがあるため、応募前には必ず最新の情報を採用ページで確認してください。

シェル(Shell)

シェルの採用ページはこちら

1995年に、海外へ赴任する社員と家族を支える情報ネットワーク「Outpost(アウトポスト)」を立ち上げました。採用ページのよくある質問でも、長期の海外勤務では語学や子どもの学校のサポート、パートナーが現地で仕事を探す手助けなどを行っていると案内されています。家族の納得を、会社の仕組みとして支えている好例です。

エアビーアンドビー(Airbnb)

Airbnbの採用ページはこちら

2022年4月に「Live and Work Anywhere」という方針を発表しました。在宅か出社かを選べるうえ、雇用されている国の中であればどこに引っ越しても給与が変わりません。さらに、世界170以上の国で、1か所あたり年間最大90日まで働けるとされています。パートナーの仕事や子どもの学校に合わせて住む場所を選びやすいのが特長です。

スポティファイ(Spotify)

Spotifyの採用ページはこちら

2021年2月に「Work From Anywhere」を導入し、社員が主に在宅で働くか出社するかを選べるようにしました。働く場所も、会社が拠点を持つ国の中で選べます。人事トップは、この仕組みが仕事と生活のバランスを良くし、新しい人材の採用にもつながると説明しています。

こうした会社の制度を家族と一緒に調べること自体が、「あなたの生活も大切に考えている」というメッセージになります。求人票を家族に見せるときは、年収の欄より先に、家族向けの制度のページを開いてみてください。話し合いの空気が大きく変わるはずです。

結論:最初の相談相手は、いちばん近くにいる「共同経営者」

ハーバードの幹部調査、INSEADの夫婦研究、トップヘッドハンターの現場の声。立場の違う3つの知見が、同じ答えを指しています。海外エグゼクティブが最初に相談するのは、パートナーをはじめとする家族です。それも説得の相手としてではなく、人生という会社を一緒に動かす「共同経営者」として。

この記事のまとめ
  • ▶転勤や転職を断る理由の1位は「家族」。家族はキャリアの成否を左右する最大の要素です。
  • ▶うまくいく幹部ほど、仕事の決断に家族を巻き込んでいます。
  • ▶大事なのは「何を選ぶか」より「どう選ぶか」。報告ではなく共同決定を。
  • ▶家族と価値観をそろえたら、次にパーソナル取締役会に相談するのが正しい順番です。
  • ▶家族ごと支える制度を持つ会社を選ぶことも、立派なキャリア戦略です。

次のキャリアの扉を開ける前に、まずは今夜、家族に「実はちょっと相談したいことがあるんだ」と声をかけてみてください。その一言が、あなたのハイクラス転職をいちばん確かなものにしてくれる最初の一歩になります。