キャリア形成 | ハイクラス転職
寝る前に求人を眺めて、なんとなく閉じる。その夜が何回目か、覚えていますか。この記事では、アメリカやヨーロッパの研究データをもとに、「眺める人」と「動く人」を分けている本当の理由と、明日からできる小さな一歩をお伝えします。
LinkedIn(リンクトイン:世界最大のビジネス向けSNS)の調査では、世界の働く人のおよそ70%が「潜在的な転職希望者」だとされています。潜在的な転職希望者とは、いまは積極的に応募していないけれど、良い話があれば聞いてみたい人のことです。さらに、積極的に探している人も含めると、87%が新しいチャンスに前向きだという結果も出ています。
つまり、転職サイトを眺めている状態は、決して珍しいことではありません。むしろ多数派です。ただ、ここに大きな落とし穴があります。多数派でいる限り、チャンスは向こうからやって来るのを待つしかないということです。
では、同じように「良い話があれば」と思っている人の中で、実際に年収も役職も上げていく人は何が違うのでしょうか。海外の研究を読み比べていくと、答えは意外なほどシンプルでした。それは才能でもやる気でもなく、行動の「設計」と、人との「つながり方」の違いです。
ニューヨーク大学の心理学者ピーター・ゴルヴィツァー氏は、「目標を持っているのに行動できない」という悩みを長年研究してきました。そこで見つかったのが、実行意図(じっこういと)という考え方です。
用語のかみ砕き:実行意図とは
「転職したい」という目標だけでなく、「もし◯◯の状況になったら、××をする」と、いつ・どこで・何をするかを前もって決めておくことです。英語では if-then プラン(もし〜なら、〜する計画)とも呼ばれます。
ゴルヴィツァー氏とシーラン氏が2006年にまとめた分析では、94件の研究・8000人以上のデータを総合した結果、if-then プランは目標達成に「中〜大」の効果があると報告されています。数字でいうと効果量(こうかりょう:効き目の大きさを表す指標)は0.65です。しかも比べた相手は「目標をまったく持っていない人」ではなく、「目標はしっかり持っている人」でした。つまり、同じくらい本気でも、計画の形が違うだけで結果が変わるということです。
この効果は一度きりの話ではありません。2024年には同じ研究グループが642件もの検証をまとめ直し、傾向が続いていることを確認しています。
転職に当てはめると、違いはこうなります。
| 眺めて終わる人の考え方 | 動き出す人の考え方 |
|---|---|
| いつか良い求人があれば応募したい | もし日曜の朝にコーヒーを入れたら、気になる求人を3件保存する |
| 職務経歴書はそのうち整えよう | もし水曜の昼休みになったら、直近1年の成果を1行だけ書き足す |
| 業界の人とも話してみたい | もし気になる会社の人の投稿を見かけたら、その場で一言コメントする |
ポイントは、行動のきっかけを「気分」ではなく「日常の決まった場面」に結びつけることです。やる気が出るのを待つ必要がなくなるので、忙しい管理職やプロフェッショナルほど効果を実感しやすい方法です。
2022年、科学誌サイエンスに、キャリアの常識をくつがえす研究が掲載されました。LinkedIn、スタンフォード大学、MIT、ハーバード大学の研究チームが、約2000万人のユーザーを対象に5年間にわたる大規模な実験を行ったのです。
実験では、「知り合いかも」というおすすめ機能の表示を調整し、親しい人がおすすめされやすいグループと、ゆるい知り合いがおすすめされやすいグループに分けました。期間中には約20億件の新しいつながりと、約60万件の新しい就職が生まれています。
研究の規模
約2000万人
5年間・世界規模のランダム化実験
生まれた就職
約60万件
つながりの差が転職に直結
ゆるいつながりの効果
2倍以上
親しい人と比べた転職への影響
結果は、ほどよくゆるいつながりは、親しいつながりの2倍以上、新しい会社への転職を後押ししたというものでした。これは1973年に社会学者グラノヴェッター氏が唱えた「弱いつながりの強さ」という理論を、初めて大規模な実験で確かめた成果として注目されました。
用語のかみ砕き:弱いつながりとは
毎日話す同僚や親友ではなく、前の職場で少し一緒だった人、勉強会で名刺を交換した人など、「たまに顔を思い出す程度」の相手のことです。自分とは違う世界の情報を持っているので、新しい求人の話が届きやすいと考えられています。
面白いのは、効果が一番高かったのは「まったく知らない人」ではなく、「ほどよく」ゆるい関係だったことです。さらに、IT化が進んだ業界ほど、この効果が強く出たことも報告されています。コンサル、金融、テック系などハイクラス転職が多い業界の人にとっては、見逃せない結果です。
転職サイトを眺める人が見落としがちなのが、「どこから応募するか」で結果が大きく変わるという事実です。アメリカの採用データを見ると、その差ははっきりしています。
| 応募の入口 | 応募者に占める割合 | 採用者に占める割合 |
|---|---|---|
| 求人サイト | 約61% | 約42% |
| 企業の採用ページ | 約13% | 約26% |
| 社員からの紹介(リファラル) | 約2% | 約11% |
出典:米国の採用管理サービス各社の年次レポート(2024年データ)をもとに作成
リファラルとは、その会社で働く人から紹介してもらって応募する方法です。応募者のわずか2%ほどなのに、採用者の11%を占めています。別の分析では、紹介経由の応募者は約40%が面接に進んだのに対し、一般応募は約12%にとどまったというデータもあります。
もう一つ見逃せないのが、企業の採用ページから直接応募した人の強さです。求人サイトよりも、採用者になる割合が高くなっています。自分で会社を調べて、公式ページから応募する。その「ひと手間」が、本気度として伝わっているのかもしれません。
ここで、ポイント2つ目とつながります。紹介をもらうには、その会社に「ゆるい知り合い」がいる必要があります。つまり、つながりを育てることが、そのまま一番通りやすい入口を開く鍵になるのです。
ロンドン・ビジネス・スクールのハーミニア・イバーラ教授は、キャリアを変えた多くのプロフェッショナルを調べ、著書『ハーバード流 キャリア・チェンジ術(原題:Working Identity)』にまとめました。そこで示されたのは、「やりたいことが分かってから動く」のではなく、「動くことでやりたいことが分かる」という考え方です。
イバーラ教授によると、うまくキャリアを変えた人は次の3つを実践していました。
-
1
新しい仕事を小さく試す。副業、社内プロジェクト、ボランティアなど、会社を辞めずに「未来の自分」を体験してみる。
-
2
新しい人の輪に入る。いつものメンバーではなく、行きたい業界の人と出会う場所に顔を出す。
-
3
経験を物語にまとめ直す。試したことを振り返り、「なぜ次はこの道なのか」を自分の言葉で語れるようにする。
たとえば、こんな人をイメージしてみてください。大手メーカーで経営企画をしている40歳のAさんは、ずっとスタートアップのCFO(最高財務責任者)に興味がありました。でも、求人サイトを見るだけで2年が過ぎていました。
Aさんがやり方を変えたのは、「もし毎月第1土曜が来たら、スタートアップ関連の勉強会に1つ参加する」と決めたことです。3か月後、勉強会で知り合った人から、知人の会社の資金調達を手伝ってほしいと頼まれました。週末だけの手伝いでしたが、そこで「自分はこの仕事が好きだ」と確信できたのです。半年後、その会社の役員からの紹介で、別のスタートアップの財務責任者の面接に進みました。
この例には、ここまでの3つのポイントがすべて入っています。if-then プランで動き始め、ゆるいつながりが生まれ、紹介という一番通りやすい入口から応募できた。特別な才能ではなく、小さな仕組みの積み重ねが結果を変えたのです。
いきなり転職活動を始める必要はありません。次の中から、1つだけ選んで今週やってみてください。
- if-then プランを1つだけ書く(例:もし日曜の朝食後になったら、気になる会社の採用ページを1社見る)
- しばらく連絡していない元同僚や取引先の人に、近況を聞く短いメッセージを1通送る
- LinkedIn のプロフィールを更新し、非公開の「転職に興味あり」設定をオンにする
- 行きたい業界の勉強会やオンラインイベントを1つ予約する
- 求人サイトではなく、気になる企業の公式採用ページを直接ブックマークする
この記事で紹介した研究やデータに関わった企業です。「公式採用ページから直接見る」練習として、のぞいてみてください。
- 働く人の約7割は「良い話があれば」と待っている側。待つだけでは差がつかない
- 「もし〜なら、〜する」と決めるだけで、目標達成の確率は大きく上がる
- 転職のチャンスは、親友よりも「ほどよくゆるい知り合い」から届きやすい
- 紹介や公式採用ページからの応募は、求人サイト経由より通過しやすい
- やりたいことは、考えるより小さく試すことで見えてくる
転職サイトを眺める時間は、無駄ではありません。ただ、その時間の最後に「次にいつ、何をするか」を1つだけ決めて閉じる。それだけで、あなたは「眺める側」から「動き出す側」へ移ります。次のキャリアは、今週の小さな一歩から始まります。



