
キャリア形成ガイド
「このまま今の会社にいていいのかな」。3年目は、多くの人がこの問いにぶつかる時期です。
この記事では、日本と海外の最新データ、そしてLinkedInの創業者が広めた考え方をもとに、「辞めるか、残るか」ではなく「次の3年で何を手に入れるか」で決める方法をお伝えします。
まず、数字から見てみましょう。厚生労働省が2025年10月に公表した調査では、2022年3月に大学を卒業して就職した人のうち、3年以内に会社を辞めた人は33.8%でした。つまり、およそ3人に1人です。高校卒では37.9%となっています。
海外に目を向けると、動きはさらに速くなっています。人材サービス大手のランスタッド(Randstad)が15の国と地域の1万1250人を調べた2025年の調査では、Z世代(おおむね1990年代後半から2010年代はじめに生まれた世代)が社会人になって最初の5年間で1つの職場にいる期間は平均1.1年でした。
| 世代 | 社会人最初の5年間の平均在籍期間 |
|---|---|
| Z世代 | 1.1年 |
| ミレニアル世代 | 1.8年 |
| X世代 | 2.8年 |
| ベビーブーマー世代 | 2.9年 |
出典:Randstad「Gen Z Workplace Blueprint」(2025年)
ここで注目したいのは、ランスタッドがこの動きを「ただの転職ぐせではない」と分析している点です。同じ調査では、10人に4人が「仕事を変えるときは、いつも長い目で見たキャリアの目標を考えている」と答えています。また、転職を考える理由として、給料の次に多かったのは「成長の道すじが見えないこと」でした。
つまり、世界の若手は「嫌だから辞める」のではなく、「成長が止まりそうだから動く」という考え方に変わりつつあるのです。これは、ハイクラス転職(年収の高い専門職や管理職ポジションへの転職)を目指す人にとって、とても大事なヒントになります。
では、3年目のあなたは何から考えればよいのでしょうか。ここからは、最初に考えたい3つのポイントを順番にお話しします。
迷ったとき、多くの人は「何が嫌なのか」から考えはじめます。上司との相性、給料、残業。もちろん大切です。でも、ハイクラスを目指すなら、最初にやるべきなのは「自分の手元に何が残っているか」の棚卸しです。
アメリカでは、この手元に残る力を「キャリア・キャピタル(キャリアの元手)」と呼ぶことがあります。お金の世界で元手が多いほど大きな投資ができるのと同じで、仕事の元手が多いほど、次に選べる会社やポジションの幅が広がります。
| 元手の種類 | 中身の例 | 自分に聞く質問 |
|---|---|---|
| スキル | 分析、営業、企画、語学、数字を読む力 | 他社の人にも「できる」と説明できるか |
| 実績 | 売上、改善した数字、任された案件 | 数字や結果で1行で言えるか |
| 人のつながり | 社内外で相談できる人、推薦してくれる人 | 転職しても連絡を取り合える人は何人いるか |
| 評判 | 「あの人に任せれば安心」という信頼 | 自分の名前で仕事が回ってくることがあるか |
この表を埋めてみると、2つのパターンのどちらかに気づくはずです。
パターンA:元手がしっかりたまっている
この3年でかなりの力が身についています。今の会社でこれ以上増えにくいなら、外に出て元手を「使う」タイミングかもしれません。
パターンB:元手がまだ少ない
今辞めても、次の会社で選べる幅はせまくなりがちです。あと1年で何を増やすかを決めてから動くほうが、結果的に早道になります。
大切なのは、「嫌だから辞める」でも「我慢して残る」でもなく、元手が増え続ける場所にいるかどうかで判断することです。ここが、ハイクラス転職に届く人と届かない人を分ける最初の分かれ道になります。
「転職すれば給料が上がる」。よく聞く言葉ですが、海外のデータを見ると、それは時期によって変わることがわかります。
アメリカのアトランタ連邦準備銀行(アメリカの中央銀行の地方支店のような機関)は、毎月「転職した人」と「同じ職場に残った人」の給料の伸びを比べています。ふだんは転職した人のほうが伸びが大きく、その差は長い目で見ると平均で約0.7ポイントです。
ところが2025年は、2月から7月まで6か月連続で、残った人の給料の伸びが、転職した人を上回りました。7月の時点では、残った人が4.1%、転職した人が4.0%です。このような逆転はめずらしく、続けて起きたのはリーマンショック後の2009年から2010年以来とされています。
一方で、その後の9月のデータでは、転職した人の伸びが4.6%、残った人が3.8%と、再び転職組が上回る形に戻っています。
ここから学べること
転職による給料アップは「いつでも約束されたもの」ではありません。だからこそ、給料の上げ幅だけで決めるのではなく、「次の会社で、次の3年にどんな元手が増えるか」を軸にするほうが、景気に左右されにくい判断になります。
アメリカで多くの人が仕事を辞めた「大退職時代」のあと、調査会社ハリス・ポールが米紙USA TODAYのために行った2022年の調査では、ここ2年で仕事を辞めた人のおよそ5人に1人が「辞めたことを後悔している」と答えました。さらに、転職先を「ずっといたいほど気に入っている」と答えた人は26%にとどまり、24%は「前の職場の雰囲気がなつかしい」と答えています。
また、若手の入口も変わってきています。先ほどのランスタッドの調査では、経験0〜2年向けの求人は、2024年1月から29ポイント減ったと報告されています。AIによって定型的な仕事が減っていることも理由の1つと見られています。若手のうちに「なんとなく辞める」ことのリスクは、以前より大きくなっているといえます。
ただし、これは「辞めるな」という意味ではありません。勢いで辞めるのではなく、次に何を得るかを決めてから動く人ほど、後悔が少ないということです。
最後のポイントは、少し発想を変えるものです。LinkedIn(ビジネス向けSNS)の共同創業者リード・ホフマン氏は、2014年の著書『ALLIANCE アライアンス』の中で、「ツアー・オブ・デューティ(任務期間)」という考え方を紹介しました。
これは、会社と社員がおたがいに「この2〜4年でこの任務をやりとげよう」と約束し、任務が終わったら次の任務を話し合う、という働き方です。終身雇用でもなく、いつ辞めてもいい自由契約でもない、その中間にある「対等な同盟」のような関係を目指しています。
-
1
ローテーション型(基礎を学ぶ任務)
いくつかの部署を回って、会社の基本を身につける期間です。新卒の最初の数年は、まさにこれにあたります。 -
2
トランスフォーメーション型(自分と会社を変える任務)
期間よりも「達成すること」が決まっている任務です。うまくいけば、本人のキャリアも会社の成長も大きく変わります。 -
3
ファウンデーション型(会社の土台をになう任務)
会社と本人の目指す方向がぴったり合い、長く中心メンバーとして働く形です。経営陣の多くはここに入ります。
この考え方を3年目のあなたに当てはめると、問いが変わります。「辞めるべきか」ではなく、「最初の任務(ローテーション型)は終わったか。次の任務は今の会社にあるか、外にあるか」という問いです。
ホフマン氏自身のエピソードがわかりやすい例です。若手のビジネスアナリストとしてLinkedInに入ったある社員は、ホフマン氏と定期的に「次の任務」を話し合いながら、約10年かけて製品部門のバイスプレジデント(部門の責任者クラス)まで成長しました。そして最後の任務の話し合いの中で、次の挑戦はベンチャー投資会社のほうが合うとわかり、会社を移っています。ホフマン氏は引き止めず、むしろその門出を応援しました。
任務型で考えると、こう変わる
辞めることは「裏切り」でも「逃げ」でもなく、任務を終えて次の任務へ進むことになります。逆に、今の会社に次の大きな任務があるなら、残ることは「我慢」ではなく「攻めの選択」になります。
ここからは、成長の道すじを見える形にしている海外企業の例を紹介します。転職先を選ぶときの「見るべきポイント」としても役立ちます。
採用ページ:https://careers.linkedin.com/
先ほどの「ツアー・オブ・デューティ」を実際に取り入れてきた会社です。上司と部下が「この期間でこれを達成する」という任務を話し合い、終わったら次の任務を決めます。
また、社員が業界の優秀な人とランチをし、学んだことをまとめれば、その費用を会社が負担するという仕組みもあると紹介されています。社外のつながりを「元手」として育てることを、会社が後押ししている点が特徴です。
採用ページ:https://careers.unilever.com/
世界的な日用品メーカーのユニリーバは、「FLEX Experiences」という社内の仕事マッチングの仕組みをつくりました。AIが社員の経験や希望に合った社内のプロジェクトを提案し、今の仕事を続けながら、別の部署の仕事に一部の時間で参加できるというものです。
はじめは約2万人で試し、その後90か国以上の9万人を超える社員に広がりました。ある2か月だけで、30万時間を超える社内プロジェクトの時間が生まれたと発表されています。つまり、会社を辞めなくても「次の任務」を見つけられる環境があるということです。
もう1つ、海外で注目されているのが「ブーメラン社員」です。一度辞めた会社に、ほかの場所で経験を積んでから戻ってくる人のことです。
アメリカの給与計算大手ADPの分析によると、2025年3月の新しい採用者のうち、35%が以前その会社で働いていた人でした。これは2018年に記録を取りはじめてから、3月としては最も高い数字です。情報通信の分野では、新しく採用された人のおよそ3分の2が戻ってきた人だったとされています。
ADPのチーフエコノミストは、戻ってくる人を「新しい人の良さと、今いる人の良さを1人で持っている存在」と表現しています。ここから言えるのは、辞め方はキャリアの一部だということです。きちんと引き継ぎをして、良い関係のまま次の任務へ進めば、それ自体が将来の元手になります。
ここまでの内容を、すぐに使える確認リストにまとめました。紙やスマホのメモに答えを書き出してみてください。
- この3年で増えた元手(スキル・実績・つながり・評判)を、それぞれ1行で書けるか
- 今の会社に、次の2〜4年でやりとげたい「任務」はあるか。上司と話したことはあるか
- 転職先の候補では、次の3年で何の元手が増えるかを具体的に言えるか
- 給料の上げ幅だけで判断していないか。景気が変わっても納得できる理由があるか
- もし辞めるなら、関係を良く保ったまま去る準備(引き継ぎ・あいさつ)ができているか
5つのうち、2つ目に「ない」と答え、3つ目に「言える」と答えた人は、外に次の任務がある可能性が高い状態です。反対に、2つ目に「まだ話していない」と答えた人は、転職活動の前に一度、上司と「次の任務」について話してみる価値があります。思いがけない道が開けることも少なくありません。
- 大卒の約3人に1人が3年以内に辞めており、海外のZ世代はさらに速く動いています。迷うのは自然なことです
- 最初にやるべきは「辞めたい理由」探しではなく、3年間で積んだ元手の棚卸しです
- 転職による給料アップは景気で変わります。軸は「次の3年で増える元手」に置きましょう
- キャリアを2〜4年の任務で区切ると、残るのも辞めるのも「攻めの選択」に変わります
- 辞め方もキャリアの一部です。良い関係のまま去れば、それが将来の元手になります
ハイクラスへの道は、1回の大きなジャンプで決まるものではありません。任務を1つずつやりとげ、元手を積み上げていく人が、最後に大きな選択肢を手にします。3年目の今こそ、あなたの次の任務を描いてみてください。
参考にした情報
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
- Randstad「Gen Z Workplace Blueprint」(2025年)
- Federal Reserve Bank of Atlanta「Wage Growth Tracker」
- ADP Research「Boomerang hiring makes a comeback」(2025年)
- Gloat「Unilever implements AI to retain, develop, and engage talent」
- Reid Hoffman, Ben Casnocha, Chris Yeh『The Alliance』(2014年)
- Harris Poll for USA TODAY(2022年3月)


