キャリア戦略 / AI時代の働き方
AIを入れれば残業が減る。多くの人がそう期待していました。ところが米国の大規模調査や大学の研究では、逆の結果が次々と出ています。この記事では、そのデータをかみ砕いて紹介しながら、年収もやりがいも上げたい人が「AIで消耗しない職場」を選ぶための視点をお伝えします。
ChatGPTのような生成AI(文章や画像を自動でつくるAI)が職場に広がって数年がたちました。メールの下書き、資料の要約、データの整理。たしかに1つひとつの作業は速くなっています。
それなのに、なぜか前より忙しい。そう感じている人は少なくありません。実はこの感覚、気のせいではないことが海外の調査で見えてきました。
ポイントは「AIが悪い」ということではありません。AIの使われ方と、会社の仕組みがかみ合っていないことが燃え尽きを生んでいるのです。そして、この差こそが転職先を選ぶときの大きなヒントになります。
オンライン人材サービス大手のUpworkが運営する研究機関「Upwork Research Institute」は、2024年に米国・英国・オーストラリア・カナダの経営層、会社員、フリーランスあわせて2,500人を調査しました。結果は、多くの人の期待を裏切るものでした。
| 項目 | 割合 | 意味すること |
|---|---|---|
| AIで生産性が上がると期待する経営層 | 96% | トップはほぼ全員が前向き |
| AIで仕事量が増えたと答えた従業員 | 77% | 現場は逆に負担増を実感 |
| 期待される成果の出し方が分からない従業員 | 47% | 使い方の教育が追いついていない |
| 燃え尽きを感じている正社員 | 71% | ほぼ4人に3人 |
| 半年以内に辞める可能性が高いと答えた人 | 3人に1人 | 理由は燃え尽きや働きすぎ |
出典:Upwork Research Institute(2024年7月発表)をもとに作成
では、何が仕事を増やしているのでしょうか。回答者が挙げた内容を見ると、とても具体的です。
- AIがつくった文章や資料のチェック・手直しに時間がかかる(39%)
- 新しいツールの使い方を覚えるのに時間を取られる(23%)
- 「AIがあるなら、もっとできるよね」と仕事そのものを増やされる(21%)
ここで大切なのは、同じ調査で経営層の81%が「この1年で社員への要求を増やした」と認めている点です。つまり、AIの効果が出る前に、期待だけが先に上乗せされているという構図です。
長く強いストレスが続いた結果、心も体もエネルギーが切れてしまう状態のことです。やる気が出ない、仕事に冷めてしまう、自分の力に自信が持てなくなる、といったサインが特徴です。
2025年、Upworkは続編の調査を発表しました。ここで分かったのは、さらに意外な事実です。AIのおかげで生産性が大きく上がったと答えた人ほど、燃え尽きていたのです。
生産性の伸び
約40%
AIで仕事が速くなったと答えた人の実感値
燃え尽き率
88%
生産性が最も上がった層のうち、燃え尽きを感じる人
離職を考える確率
約2倍
AIであまり成果が出ていない人と比べて
出典:Upwork Research Institute(2025年7月発表、2,500人対象)
さらにこの層の62%が「自分の毎日のAI活用が会社の目標とどうつながっているのか分からない」と答えています。がんばっても、その先のゴールが見えない。これは、燃え尽きを加速させる典型的なパターンです。
この現象をより深く追ったのが、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームです。約200人のテック企業を8か月にわたって観察し、40回以上の聞き取りを行いました。研究結果は2026年2月にHarvard Business Reviewで紹介され、話題になりました。
注目すべきは、この会社ではAIの利用は自由で、ノルマの引き上げもなかったことです。それでも社員は、AIで空いた時間に自分から次々と仕事を詰め込み、昼休みや夜の時間にまで仕事がはみ出していきました。ある社員は「結局、前と同じか、それ以上働いている」と語っています。
つまり、会社が無理を強いなくても「もっとできる気がする」という感覚が人を走らせてしまう。意欲が高いハイクラス人材ほど、このワナにはまりやすいのです。
研究チームは対策として、意識的に手を止める時間をつくること、仕事の順番を計画的に決めること、人と話す時間を守ることをすすめています。
なお、AIが燃え尽きを減らした例もあります。米国の遺伝カウンセラーを対象にした小規模な研究では、会話を自動で記録するAIを90日使ったグループで燃え尽きの度合いが下がりました。面倒な記録作業だけをAIに任せ、浮いた時間を患者と向き合うことに使えたのが要因とみられます。違いを生むのは、AIそのものより「何に使い、空いた時間をどう扱うか」なのです。
ここからが、キャリアを考えるうえでワクワクするところです。AI時代は「AIを導入しているか」だけでは会社の良し悪しが分かりません。AIを入れたあとに働き方の仕組みまで作り直せている会社かどうかが、あなたの成長と健康を左右します。
| チェック項目 | 消耗しやすい会社 | 消耗しにくい会社 |
|---|---|---|
| 目標の決め方 | AI導入と同時に数字だけ上げる | 効果を測ってから目標を見直す |
| 教育・研修 | ツールを配って自習まかせ | 業務時間内の研修や相談窓口がある |
| ツールの数 | 部署ごとにバラバラに乱立 | 数をしぼり、今の業務に組み込む |
| 評価のしかた | 処理した量で評価 | 成果の質や判断力を評価 |
| 空いた時間の扱い | すぐ別の仕事で埋める | 学び・企画・休息に回すルールがある |
ハイクラス転職の面接は、あなたが会社を見極める場でもあります。次の質問を投げかけると、その会社のAIとの向き合い方がよく見えます。
- 1「AI導入後、チームの目標や評価はどう変わりましたか」
数字だけが上がったのか、評価の軸ごと見直したのかが分かります。 - 2「AIの使い方を学ぶ時間は、業務時間内に確保されていますか」
学びが自己責任の会社では、仕事量が増えるリスクが高まります。 - 3「AIで浮いた時間は、何に使うよう期待されていますか」
答えがあいまいなら、自然と仕事で埋まっていく職場の可能性があります。 - 4「社員の負担や働きすぎを、どうやって把握していますか」
定期的な聞き取りや調査の仕組みがある会社は、変化に早く気づけます。
今回紹介した調査を行ったUpworkは、世界中の企業と専門人材をつなぐプラットフォームを運営し、AI時代の働き方を自ら研究・発信しています。「人とAIの協働」をテーマにした職場に興味がある方は、採用情報をのぞいてみると視野が広がります。
Upwork(米国)
- 「空いた時間の使い道」を先に決める。AIで30分浮いたら、そのうち半分は学びや振り返りに使うなど、自分ルールをつくります。
- AIを使わない場面も見極める。得意分野ではAIの手直しがかえって手間になることもあります。任せる作業と自分でやる作業を分けましょう。
- 成果を「量」ではなく「価値」で語る。何件こなしたかより、どんな判断で結果を出したかを上司に伝えると、無限に仕事が積まれる流れを止めやすくなります。
- 海外調査では、AIを使う従業員の77%が「仕事が増えた」と感じている
- AIで成果を上げている人ほど燃え尽きやすく、離職も考えやすい
- 原因はAIではなく、目標・評価・教育の仕組みが古いままなこと
- 転職では「AIを導入したか」より「働き方ごと作り直したか」を見極める
AIは、正しい環境で使えばあなたの力を何倍にも引き出してくれる強い味方です。だからこそ、その力を燃え尽きではなく成長に変えてくれる会社を選ぶことが、これからのハイクラスキャリアの分かれ道になります。次の一歩を考えるとき、ぜひ今回の視点を面接や企業研究に取り入れてみてください。
参考:Upwork Research Institute「From Burnout to Balance」(2024年)、同「From Tools to Teammates」(2025年)、UC Berkeley研究チームによるHarvard Business Review掲載研究(2026年)、medRxiv掲載の遺伝カウンセラー対象研究(2026年)


