CAREER DESIGN for 20s
2,000万人規模の海外実験が教えてくれた「ゆるいつながり」の本当の力と、ハイクラス転職につなげる育て方
SNSを開くと、大学の同期が外資系コンサルに転職した報告や、前の職場の先輩がスタートアップの役員になったという投稿が流れてくる。「すごいな」と思う一方で、少しだけ胸がザワっとする。そんな経験はありませんか。
いわゆる「隣の芝生は青く見える」状態です。でも、ここで立ち止まって考えてみてほしいのです。あの人たちは、本当に能力だけで今のポジションをつかんだのでしょうか。
海外の大規模な研究を見ていくと、答えは少しちがいます。キャリアの大きな転機は、実力に加えて「誰とつながっていたか」によって生まれていることが多いのです。しかも、そのつながりは親友や毎日顔を合わせる同僚ではなく、「たまに話す程度の知り合い」であることが少なくありません。
この記事では、ハイクラス転職を目指す20代の方に向けて、海外の研究データと企業の事例をもとに、社外とのつながりをどう広げ、どう育てればよいのかを具体的にお伝えします。読み終えるころには、他人の芝生をながめる側から、自分の芝生を育てる側へ一歩ふみ出せるはずです。
1973年、アメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターは「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」という考え方を発表しました。弱い紐帯とは、ときどき連絡をとる程度の「ゆるいつながり」のことです。反対に、家族や親友のような濃い関係は「強い紐帯」と呼ばれます。
この理論の主張はシンプルです。仲の良い人ほど自分と同じような人間関係の中にいるので、入ってくる情報も似通ってしまう。一方、ゆるい知り合いは自分とは別の世界に住んでいるため、自分では手に入らない情報や出会いを運んできてくれる、というものです。
この半世紀前の理論を、かつてない規模で検証したのが、LinkedIn、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学、ハーバード・ビジネス・スクールの研究チームです。2022年に科学誌『Science』で発表された研究では、2015年から2019年にかけて、LinkedInの「知り合いかも」というおすすめ機能の表示内容を利用者ごとに変え、ゆるい知り合いが多く表示されるグループと、親しい人が多く表示されるグループを比べました。
約2,000万人
実験に参加したLinkedIn利用者
約20億件
5年間で生まれた新しいつながり
約60万件
サイトを通じて決まった新しい仕事
結果は明快でした。研究を率いたMITのシナン・アラル教授は、実験データで見ると平均してゆるいつながりのほうが強いつながりよりも転職に役立つ、とまとめています。さらにくわしく見ると、いちばん効果が大きかったのは「ほどよくゆるい」つながりでした。オーストラリアのシドニー工科大学の解説によると、共通の知り合いが10人前後いる程度の相手が、新しい仕事につながりやすかったとされています。
まったく接点のない他人では信頼が足りず、親しすぎる相手では情報が似すぎている。その中間にいる「顔と名前は知っている、たまに話す人」こそが、キャリアの扉を開くカギになるというわけです。
もう1つ、2026年の最新データも紹介します。LinkedInが2026年7月から8月にかけて、アメリカ、イギリス、インド、シンガポール、ドイツなど12の国と地域で働く1万8,050人を対象に行った調査があります。その発表の中で、LinkedInは自社データとして、応募先の会社にLinkedIn上のつながりがある応募者は、つながりのない応募者より採用される可能性が約6.7倍高かったと紹介しています(アメリカのデータ)。
ここで大切なのは、「コネで入る」という話ではないことです。社内に知り合いがいれば、求人票には書かれていない仕事の実態やチームの課題を事前に聞けますし、面接でも的を射た話ができます。つまり、つながりは「情報の質」を上げ、その結果として選考での強さにつながるのです。ハイクラスの求人ほど公開されずに人づてで動くことが多いため、この差はさらに大きくなります。
いまの20代は、社会人生活の早い時期にリモートワークやハイブリッド勤務を経験した世代です。働き方が自由になった反面、見えにくい副作用もありました。
マイクロソフトとカリフォルニア大学バークレー校の研究者が、アメリカのマイクロソフト社員6万1,182人のメールやチャット、会議の記録を分析した研究(2021年、科学誌『Nature Human Behaviour』)では、全社的なリモートワークによって、社員の協働ネットワークが固定化し、サイロ化したと報告されています。サイロ化とは、部署やチームがそれぞれ孤立して、横のつながりが細くなる状態のことです。
報道によると、部署の外の人と協働する時間の割合は、コロナ前と比べて約25%減りました。新しく一緒に働く相手も増えにくくなり、ネットワーク全体が動かなくなったのです。社内ですらこうなのですから、社外とのつながりはなおさら意識しないと広がりません。
先ほどのLinkedInの2026年調査では、Z世代(おおむね1990年代後半以降に生まれた世代)の本音もはっきり出ています。
| 調査項目(Z世代・世界) | 割合 |
|---|---|
| 仕事上のネットワークはキャリアに大切だと思う | 89% |
| それでもつながりづくりに踏み出せていない | 61% |
| 理由:相手の迷惑になるのがこわい | 41% |
| 理由:どう思われるか(評価されること)がこわい | 37% |
| 理由:わざとらしく見えるのがこわい | 30% |
| 人間関係の築き方を誰からもきちんと教わっていない | 71% |
出典:LinkedIn(Censuswide実施、2026年7〜8月、12の国と地域の1万8,050人)をもとに作成
つまり、多くの20代は「つながりは大事」と知っているのに、「迷惑かも」「変に思われるかも」というブレーキで止まっています。ここで注目してほしいのは、同じ調査の別の結果です。インド向けの発表によると、ミレニアル世代の92%、X世代の95%が「知らない相手でも、キャリアを始めたばかりの人なら助けたい」と答えています。
怖がっているのは声をかける側だけで、声をかけられる側の多くは、実は手を差しのべる準備ができているのです。このギャップに気づけた人から、一歩先に進めます。
では、どんなつながりを広げればよいのでしょうか。やみくもに名刺を集めても、キャリアは動きません。海外の研究をもとに、20代が意識して育てたいつながりを3種類に整理しました。
いちばん手軽で、しかも効果が大きいのが、しばらく連絡をとっていない昔の知り合いです。研究の世界では「休眠紐帯(ドーマント・タイ)」と呼ばれます。大学のゼミ仲間、インターン先の先輩、前の部署の同僚などがこれにあたります。
ラトガース大学、ジョージ・ワシントン大学、ノースウェスタン大学の研究者たちは、社会人MBAに通う数百人の経営幹部に、3年以上連絡をとっていなかった相手へ仕事の相談をしてもらう実験を行いました(2011年、学術誌『Organization Science』)。その結果、休眠中のつながりから得たアドバイスは、いま付き合いのある人と同じかそれ以上に役立ち、しかも目新しいアイデアが多かったのです。
理由は2つあります。1つ目は、相手もあなたと連絡をとっていない間に新しい経験を積んでいるので、新鮮な情報を持っていること。2つ目は、昔の信頼関係が残っているので、初対面の人より話が早いことです。ゆるいつながりの「新しさ」と、親しい関係の「信頼」をいいとこ取りできる存在だといえます。
さらに続く研究では、最も価値があったのは「昔はそれほど一緒に過ごしていなかった」「自分より立場が上だった」「信頼できて協力的な」相手だった一方で、多くの人はそうした相手を選ばず、気楽な相手ばかりに連絡していたこともわかっています。少しだけ勇気を出して、「元上司の上司」や「インターン先でお世話になった他部署の人」に連絡してみる価値は十分にあります。
2つ目は、自分とは異なる業界や職種の人とのつながりです。シカゴ大学の社会学者ロナルド・バートは、「構造的空隙(くうげき)」という考え方を提唱しました。むずかしく聞こえますが、要はグループとグループの間にある「すき間」のことです。
人は同じグループの中では似た考え方をしがちですが、グループ同士の間では考え方がまったくちがいます。バートがアメリカの大手電機メーカーの管理職を調べた研究(2004年)では、このすき間をまたいで複数のグループとつながっている人ほど、報酬が高く、評価が良く、昇進が早く、良いアイデアを出していたと報告されています。
たとえば、IT企業の営業職の方が、製造業の経営企画の人や医療系スタートアップのエンジニアとつながっていれば、社内の誰も知らない業界の悩みや新しい商売のヒントを持ちこめます。ハイクラス転職の面接で問われる「あなたならではの視点」は、こうした橋渡しから生まれることが多いのです。
3つ目は、勉強会やユーザー会、オンラインコミュニティなど、同じテーマを学ぶ場で生まれるつながりです。この場の強みは、「人脈づくり」ではなく「学び」が目的なので、迷惑をかける心配やわざとらしさを感じにくいことです。
共通の課題に一緒に取り組むことで自然と信頼が育ち、気づけば業界をこえた仲間ができています。後ほど紹介する海外企業の事例では、こうしたコミュニティへの参加が転職や昇進に直結しているデータもあります。
| 種類 | 具体的な相手 | 得られるもの | 始めやすさ |
|---|---|---|---|
| 眠っているつながり | ゼミ仲間、元上司、インターン先の先輩 | 信頼にもとづく率直な助言、新鮮な情報 | 今日からできる |
| 業界の外の橋渡し役 | 異業種の同世代、他職種の専門家 | 自分ならではの視点、非公開の機会 | 数か月かけて育てる |
| 学びのコミュニティ | 勉強会、ユーザー会、専門分野のSNS | 専門性の証明、自然な信頼関係 | 月1回の参加から |
海外の先進企業は、社外とのつながりを個人の努力まかせにせず、仕組みとして後押ししています。ハイクラス転職先としても人気の高い4社の取り組みを見てみましょう。
利用者や開発者が学び合う「Trailblazer Community(トレイルブレイザー・コミュニティ)」を運営しています。同社が紹介した調査会社Valoirの調査では、参加者の5人に3人が「コミュニティのおかげで転職や昇進ができた」と回答しました。社外の学びの場が、そのままキャリアの階段になっている好例です。
クラウドサービスAWSの知識を発信する人を支える「AWS Community Builders」という無料プログラムがあります。社員ではない技術者や学生も応募でき、AWSの製品チームや専門家、世界中の仲間とつながる機会が用意されています。発信を続けることが、そのまま社外ネットワークの入口になる仕組みです。
技術コミュニティで知識を分かち合う社外のリーダーを表彰する「Microsoft MVP」制度を長年続けています。イベントやコミュニティを通じて知識を広め、人脈を広げることそのものが評価される仕組みです。先に紹介したリモートワーク研究も同社の研究者によるもので、つながりの価値を自ら検証している会社でもあります。
「ゆるいつながり」の2,000万人実験にデータを提供した会社です。同社によると、他の人の投稿に反応している利用者は、つながり申請を受け取る可能性が約3倍高いとのこと。いきなり「つながってください」と送るより、まずは相手の発信にコメントするほうが自然に関係が始まることを、データで示しています。
4社に共通しているのは、「人脈を作ろう」と構えるのではなく、「学ぶ」「教える」「発信する」の延長でつながりが生まれる設計になっていることです。この考え方は、個人のつながりづくりにもそのまま応用できます。
ここまでの研究と事例をふまえ、忙しい20代でも続けやすいステップにまとめました。ポイントは、いきなり大きな交流会に飛びこまないことです。小さな一歩を積み重ねるほうが、結果として遠くまで行けます。
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1
最初の1週間:つながりの「棚卸し」をする
スマートフォンの連絡先やSNSを見返し、3年以上話していない知り合いを10人書き出します。そのうち、「今の自分より少し先を歩いている人」「業界がちがう人」に印をつけましょう。これがあなたの眠っている資産です。
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2
2〜4週目:眠っているつながりに3人連絡する
「最近の投稿を見て、懐かしくなって連絡しました」「今こんなことに挑戦していて、〇〇さんの経験を15分だけ聞かせてもらえませんか」のように、理由と時間を具体的に伝えると相手も返事をしやすくなります。お願いは小さく、お礼はていねいに、が鉄則です。
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3
2か月目:学びのコミュニティに1つ参加する
自分の専門や、次に伸ばしたいスキルに関わる勉強会やユーザー会を1つ選び、月1回参加します。慣れてきたら、質問をする、感想を発信する、運営を手伝う、と少しずつ関わりを深めましょう。運営側に回ると、自然に人が集まってくる立場になれます。
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4
3か月目:週1回、学びを発信する
LinkedInなどで、仕事で学んだことや読んだ本の気づきを短く投稿します。あわせて、気になる人の投稿に週3回ほど中身のあるコメントを残しましょう。発信は「名刺を配らなくても見つけてもらえる状態」をつくる、いちばん効率の良い方法です。
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5
ずっと続けること:人と人をつなぐ
「この2人が出会ったら面白そう」と思ったら、紹介してみましょう。バートの研究が示すように、グループの間をつなぐ人には情報と信頼が集まります。もらう前に、まず与える。これが長く続くつながりの土台です。
たとえば、国内メーカーで法人営業をしている27歳の方が、将来は外資系IT企業の事業開発職に挑戦したいと考えているとします(説明のための架空の例です)。
まず、大学時代のゼミの先輩で、外資系IT企業に転職した人に4年ぶりに連絡し、事業開発の仕事の中身を30分だけ聞かせてもらいます。そこで「クラウドの基礎知識があると話が早い」と教わり、クラウドのユーザー会に参加を始めます。
半年後、ユーザー会で知り合ったエンジニアに、自分の業界の課題を話したことがきっかけで共同の勉強会を企画。その発信を見た別の会社の採用担当から声がかかる。1つ目、2つ目、3つ目のつながりが連鎖して、求人サイトには出てこない機会にたどり着く。これが社外ネットワークの本当の力です。
せっかくの行動も、やり方をまちがえると逆効果になります。次のポイントを確認しておきましょう。
- 初めての連絡でいきなり「求人を紹介してください」と頼んでいないか。最初は話を聞かせてもらうだけで十分です。
- つながりの「数」を追いかけていないか。研究で効果があったのは、ほどよい距離感の相手との質の高いやりとりです。
- 話を聞いたあと、お礼と「その後どうなったか」の報告をしているか。報告があると、相手はまた助けたくなります。
- 今の会社の秘密や、他人から聞いた話を軽々しく広めていないか。信頼は一度失うと取りもどせません。
- 同じ業界、同じ年代の人ばかりと会っていないか。似た人だけの集まりは居心地は良くても、新しい情報は入りにくくなります。
- 2,000万人規模の実験で、転職に最も役立ったのは「ほどよくゆるい」つながりだった
- リモート中心の働き方では、社内外のつながりは意識しないと細っていく
- 20代が育てたいのは「眠っているつながり」「業界の外の橋渡し役」「学びのコミュニティ」の3種類
- 先輩世代の多くは、キャリアを始めたばかりの人を助けたいと思っている
- 「学ぶ」「発信する」「人をつなぐ」の延長で、自然に関係を広げていく
隣の芝生が青く見えるのは、あなたがまだ自分の庭に種をまいていないだけかもしれません。社外とのつながりは、時間をかけるほど複利のように育っていきます。20代のいまが、いちばん種まきに向いている時期です。まずは今週、3年以上話していないあの人に、短いメッセージを1通送ってみませんか。その1通が、数年後のあなたのキャリアを大きく変える最初の一歩になるはずです。
- MIT News:LinkedInの大規模実験と「弱い紐帯」(2022年)
- University of Technology Sydney:仕事探しに役立つつながりの解説
- HRD:LinkedInによるZ世代のネットワーク調査(2026年)
- Business Today:LinkedIn調査のインド向け発表(2026年)
- Berkeley Haas:マイクロソフト社員6万人のリモートワーク研究(2021年)
- CE Pro:同研究の部署横断の協働時間に関する報道
- MIT Sloan Management Review:休眠中のつながりの力(2011年)
- Organization Science:価値の高い休眠紐帯の選び方(2015年)
- Ronald S. Burt「Structural Holes and Good Ideas」(2004年)
- Salesforce:Trailblazer Communityに関する発表
- AWS Community Builders 公式ページ
- Microsoft MVP 公式ページ

