転職市場で「見えない候補者」にならないために、海外エグゼクティブが発信していること

外資系企業への転職

「これだけの実績を積んできたのに、なぜかヘッドハンターから声がかからない」。ハイクラス転職を目指す方から、こうした悩みを聞くことがあります。実は転職市場には、能力や経験の高さとは別の理由で、企業やヘッドハンターの目に留まらないまま埋もれてしまう人が数多く存在します。この記事では、こうした状態を「見えない候補者」と呼び、海外のエグゼクティブたちが実際に取り入れている考え方と行動を、複数の海外の情報源をもとに紹介します。難しい専門用語には、その都度かんたんな説明を添えていきますので、じっくり読み進めてみてください。

なぜ優秀な人ほど「見えない候補者」になってしまうのか

まず押さえておきたいのが、「パッシブ候補者」という考え方です。パッシブ候補者とは、今すぐ転職活動をしているわけではないものの、良い話があれば検討してもよいと考えている人材のことを指します。海外の人材業界の調査では、転職市場に存在する人材の多くがこのパッシブ候補者にあたるとされています。つまり、企業やヘッドハンターが本当に会いたいと思っている層の多くは、求人サイトに登録して積極的に応募している人ではなく、普段は自分の仕事に集中しながら静かに市場に存在している人なのです。

ここで重要になるのが、ヘッドハンターがどうやって候補者を探しているかという実態です。大手エグゼクティブサーチファームでライフサイエンス領域を統括する、20年以上のキャリアを持つある人物は、自身の情報発信の中で、ヘッドハンターは候補者の経歴を偶然見つけているのではなく、決まったキーワードで検索をかけて絞り込んでいると述べています。たとえば「営業担当役員」を探すとき、検索窓に入力するのは「バイスプレジデント・オブ・セールス」のような一般的で分かりやすい役職名であり、独自性の高いユニークな肩書きでは検索に引っかからず、結果として「見えない候補者」になってしまうというわけです。

ポイント

実力があっても、検索という入り口で見つけてもらえなければ、声がかかる機会そのものが生まれません。転職市場での見え方は、実力とは別に「設計」する必要がある、というのが海外のエグゼクティブたちに共通する前提です。

海外エグゼクティブが実践している発信の中身
1つ目:検索されやすい言葉で自分の実績を語る

先ほど紹介したヘッドハンターの指摘にもあるとおり、海外のハイクラス人材は、経歴を書くときに独自性よりも「分かりやすさ」を優先する傾向があります。社内でしか通じないような肩書きをそのまま使うのではなく、業界で広く使われている一般的な職種名も併記しておくことで、検索に引っかかりやすくなります。あわせて、担当していた組織の規模や成果を、具体的な数字で説明する工夫も欠かせません。「大きなチームをまとめていた」ではなく、「30名のチームを率い、年間の売上を前年比で二桁成長させた」というように、規模と成果を数字で示すことで、実績の大きさが第三者にも正確に伝わります。

2つ目:定期的に「自分の考え」を発信し続ける

2つ目のポイントは、ビジネスSNSでの継続的な発信です。海外では、経営層が自ら業界の動向や自分なりの考えを発信する「ソートリーダーシップ」という活動が広く根づいています。ソートリーダーシップとは、専門分野において独自の視点や知見を発信し続けることで、その分野の第一人者として認識してもらう活動のことです。

たとえばマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏は、クラウド分野への転換を進める過程で、デジタル変革やリーダーシップについての考えをビジネスSNS上で発信し続けたことが、本人と企業の双方に対する信頼を築くうえで重要な役割を果たしたと紹介されています。また、ヴァージン・グループの創業者であるリチャード・ブランソン氏も、事業の裏側や起業に関する考え方を継続的に発信し、ストーリーテリングを通じて自分の存在感を築いてきた人物として知られています。

マイクロソフト

あるリーダーシップコーチは、こうした発信を整理するための考え方として「3つのR」というフレームワークを紹介しています。1つ目は関連性(レレバンス)で、自分の発信を誰に届けたいのかを具体的に考えること。2つ目は補強(リインフォースメント)で、自分の仕事の成果を、それがもたらした変化とあわせて伝えること。3つ目は評判(レピュテーション)で、自分が今どう見られているか、その見られ方が今の自分に合っているかを見直すことです。この3つを意識しながら発信を続けることで、単なる自己アピールではなく、周囲からの信頼につながる情報発信になっていきます。

3つ目:必要になる前からヘッドハンターとの関係を築いておく

3つ目は、転職を考え始めてから動くのではなく、普段からヘッドハンターとの接点を持っておくという姿勢です。南アフリカを拠点に、複数の業界でシニアリーダーの転職を支援してきたエグゼクティブサーチのリクルーターであるトレイシー・ドーソン氏は、転職活動では100人のリクルーターと接点を持つ必要はなく、たった一人の正しい相手と交わす会話の方が価値が高いと述べています。海外のハイクラス転職市場で好条件のポジションは、公募される前に、誰かからの紹介によって決まることが多いとも指摘されています。

海外には、こうした考え方を後押しする仕組みも存在します。たとえば「ブルーステップス」という組織は、エグゼクティブ層がヘッドハンターに対する visibility(見え方)を高めるための会員制ネットワークとして運営されており、リクルーターとの関係構築そのものをキャリア戦略の一部として位置づけています。転職は「応募して選ばれるもの」ではなく、「日頃の発信と関係構築の結果として声がかかるもの」だという発想が、海外のハイクラス層には根づいているのです。

日本のハイクラス転職希望者が今日から取り入れられること

ここまで紹介した海外の考え方は、そのまま日本の転職活動にも応用できます。特別なことをする必要はなく、まずは小さく始められる範囲から取り組んでみましょう。

施策 難易度 期待できる効果
職務経歴に一般的な役職名も併記する 低い 検索や照合でヒットしやすくなる
実績を人数・金額・比率などの数字で書き直す 低い 第三者に成果の規模が正確に伝わる
月に1〜2回、専門分野についての考えを発信する 中程度 継続的に検索結果や feed に表示される
転職を考えていない時期からヘッドハンターと接点を持つ 中程度 好条件のポジションを紹介されやすくなる

特にビジネスSNSを使い慣れていない方は、次の3つのステップから始めてみると取り組みやすくなります。

  1. 1
    プロフィールの棚卸し
    現在の役職名だけでなく、業界で一般的に使われている職種名も併記し、実績部分を数字ベースで書き直します。
  2. 2
    発信テーマを1つ決める
    自分の専門分野の中から、継続して語れるテーマを1つ選びます。テーマを絞ることで、発信を続けやすくなり、周囲にも専門性が伝わりやすくなります。
  3. 3
    ヘッドハンターとの接点を1つ作る
    転職を考えていなくても、業界のヘッドハンターとつながっておく、あるいは一度話を聞いてみるところから始めます。

これらは今すぐ結果が出るものではありませんが、海外のハイクラス層が数年かけて積み上げてきたのと同じ性質の取り組みです。継続すること自体が、市場での見え方を大きく変えていきます。

まとめ

「見えない候補者」になってしまう原因は、実力不足ではなく、多くの場合、検索されやすい言葉で自分を語れていないこと、継続的な発信ができていないこと、そしてヘッドハンターとの関係を必要になってから築こうとしていることにあります。海外のエグゼクティブたちは、こうした市場の仕組みを理解したうえで、日頃から自分の存在を伝える工夫を重ねています。今日紹介した内容は、どれも今日から始められる小さな一歩ばかりです。まずはプロフィールを見直すところから、自分自身の市場での見え方を育てていきましょう。